北朝鮮海軍編制関連参考資料

■参考資料-1 韓国マスコミにおいて報道した北朝鮮海軍戦隊一覧

 下の戦隊名は、96年のサンオ級潜水艇浸透事件当時の報道、時事ジャーナル97年7月9日付脱北者金イルボムの証言、98年6月のユーゴ級潜水艇浸透事件当時の報道、99年6月の西海交戦事件等、各公開資料において個別的に公開された戦隊名全てを整理したものである。

所属 戦隊名 駐屯地 特徴 出所
東海艦隊 第3戦隊 咸南楽園郡 潜水艦保有 98.06 ユーゴ級浸透時報道

第5戦隊  ? 潜水艦保有 96.09 李グァンス軍服務経歴中
西海艦隊 第7戦隊 NLL付近?   97.07 金イルボム、99.06 西海交戦
西海艦隊 第8戦隊 沙串付近、NLL付近? 羅津級保有 97.07 金イルボム、99.06 西海交戦
西海艦隊 第9戦隊 椒島付近? 8戦隊の戦力の2倍 99.06 西海交戦時報道
西海艦隊 第11戦隊 琵琶串?南浦? 潜水艦保有 98.06 ユーゴ級浸透時報道
西海艦隊 第12戦隊 平北塩州郡多獅島 上陸艦艇主体12個編隊 97.07 金イルボムのインタビュー
東海艦隊 第13戦隊 江原文川市松田湾 潜水艦保有 98.06 ユーゴ級浸透時報道

 96年9月のサンオ級潜水艦浸透事件当時逮捕された李グァンスに関する各種報道を総合すれば、彼が偵察局海上処に勤務する前に5戦隊に勤務した事実を確認することができる。しかし、李グァンスが5戦隊に勤務したのは、80年代であること から、現在の編制ではないかも知れない。

 前西海艦隊所属下戦士だった脱北者金イルボムの97年の証言(時事ジャーナル97年7月3日付)に登場する戦隊は、第7、8、12戦隊だった。金イルボムは、93年頃に北朝鮮海軍から除隊したことから、やはり現在の編制とは、差異があるかも知れない。金イルボムは、平北塩州郡に位置する第12戦隊に勤務したという。第12戦隊は、計12個編隊で構成されるが、その中で7個編隊が空気浮揚艇(コンバン級又は南浦A/B級ホーバークラフト)を保有した編隊だという。2個編隊は、高速上陸艇運用部隊だと語ったが、恐らく南浦級を保有した編隊のようである。この外にも、魚雷艇編隊が1個、高速誘導弾艇部隊が1個編隊だという。総じて、第12戦隊は、上陸艦艇を主(12個編隊中に9個編隊が上陸艦艇保有)に構成されたが、高速誘導弾艇編隊や魚雷艇編隊が混成することは注目に値する。第7戦隊と第8戦隊は、北方限界線(NLL)付近に駐屯しており、インタビューで明らかになったが、特に8戦隊には、羅津級を保有しているという。

 98年6月の東海ユーゴ級潜水艇浸透事件当時、韓国日報は、北朝鮮海軍中に3、11、13戦隊が潜水艦を保有する戦隊だと報道した。李グァンスが服務した5戦隊まで含める場合、全体で16個戦隊中に4個戦隊が潜水艦を保有している戦隊のはずである。

 99年6月の西海交戦当時には、7、8、9戦隊が連合通信ニュースに登場したことがある。8戦隊は、99年6月の西海交戦当時の主力であり、7戦隊も、8戦隊近隣に駐屯していると報道されたことがある。9戦隊の場合、椒島付近に駐屯しているが、ミサイル高速艇等を保有しており、8戦隊戦力の約2倍に該当する戦力を持っているという。

 以上確認された戦隊は、計8個で、特に7、8戦隊は、2事例に渡って交差確認されたことにより、比較的確実であるといえる。

■参考資料-2 『金正日大図鑑』の戦隊配置図に対する分析

 1997年に日本の小学館という出版社から『北朝鮮解体新書』という本を発刊したことがある。誤りが少なくなかったが、日本書籍特有の緻密な編集と 見事な図面だけは見栄えがする本である。その小学館が2000年には、『金正日大図鑑』という本を発刊した。この本は、題目が異なっているが、『北朝鮮解体新書』と70%程度の内容が同一である。即ち、『金正日大図鑑』は、『北朝鮮解体新書』の最新改訂版だといえる。

 『金正日大図鑑』p11を見れば、陸海空三軍基地とミサイル 配備総覧という題目下に軍部隊配置図を載せている。この配置図は、『北朝鮮解体新書』p67の配置図を修正したもので、いろいろ興味深い点が目に止まる。

 この配置図によれば、西海艦隊に警備戦隊4個、ミサイル戦隊、魚雷戦隊等、計6個戦隊が所属しており、東海艦隊に駆逐戦隊、警備戦隊6個、魚雷戦隊2個等、計10個戦隊が所属している。西海艦隊に6個戦隊、東海艦隊に10個戦隊が 所属する計算だが、興味深いことにもこの結果は、国防白書に出ている数値と一致することである。

 もう1つ注目される点は、この配置図が『防衛叢書』1986年版に出ている北朝鮮海軍戦隊現況と相当部分一致する点である。

防衛叢書1986 金正日大図鑑2000
西海艦隊 (多獅島)警備戦隊 多獅里警備戦隊
西海艦隊 (南浦)潜水艦戦隊
西海艦隊 南浦警備戦隊 南浦警備戦隊
西海艦隊 (南浦)誘導弾警備戦隊 南浦ミサイル戦隊
西海艦隊 椒島魚雷戦隊
西海艦隊 琵琶串魚雷戦隊
西海艦隊 広梁里魚雷戦隊
西海艦隊 海州警備戦隊
西海艦隊 沙串警備戦隊 沙串警備戦隊2個
西海艦隊 沙串魚雷戦隊
東海艦隊 清津警備戦隊     
東海艦隊 (漁郎〜化成付近)警備戦隊
東海艦隊 金策警備戦隊 金策警備戦隊
東海艦隊 遮湖駆潜戦隊
東海艦隊 遮湖警備戦隊
東海艦隊 新浦警備戦隊 新浦警備戦隊
東海艦隊 馬養島潜水艦戦隊
東海艦隊 楽園(退潮)警備戦隊   
東海艦隊 楽園駆逐戦隊
東海艦隊 元山警備戦隊 元山警備戦隊
東海艦隊 (元山)誘導弾警備戦隊 元山ミサイル戦隊
東海艦隊 (元山)1、2魚雷戦隊 元山魚雷戦隊2個
東海艦隊 (元山)掃海編隊
東海艦隊 長箭警備戦隊 (長箭)警備戦隊
20個戦隊 16個戦隊(潜水艦戦隊2個、魚雷戦隊2個)

  このように、『金正日大図鑑』に出てくる16個戦隊中に10個戦隊が『防衛叢書』に出てくる戦隊現況と内容が一致する。

 その上、両資料をじっくり比較してみれば、充分論理的一貫性を持っている。

 西海艦隊の場合、両資料の間に2つの差異点がある。第1に、『防衛叢書』には、海州警備戦隊と沙串警備戦隊として出ているが、『金正日大図鑑』には、沙串警備戦隊2個と出ている。沙串と海州は、隣接地域であることから、内容上両資料は符合する。第2に、『防衛叢書』には、椒島魚雷戦隊、琵琶串魚雷戦隊、広梁里魚雷戦隊として出ているが、『金正日大図鑑』には、沙串魚雷戦隊のみ出ている。戦隊数が20個から減少したが、魚雷戦隊が統合されたという論理的蓋然性は充分にある。

 東海艦隊の場合も、2つの点が異なる。第1に、『防衛叢書』には、清津警備戦隊が出ているが、『金正日大図鑑』には、武渓浦警備戦隊が出ている。咸鏡南道との境界線に位置する警備戦隊を除外すれば、咸鏡北道の長い海岸線に別の警備戦隊がない。従って、清津から 武渓浦への戦隊位置移動は、咸鏡北道海岸縦深に移動することから、充分に蓋然性がある。第2に、『防衛叢書』には、遮湖に駆潜戦隊、楽園に警備戦隊が位置するものと出ているが、『金正日大図鑑』では、遮湖に警備戦隊、落選に駆逐戦隊位置するものと出ている。結局、2つの戦隊が位置を互いに 交換した計算である。楽園に東海艦隊司令部が位置していることにより、司令部所在地に大型艦艇を保有した駆逐戦隊を配置することは、充分に納得できることである。従って、両資料の差異は、根本的矛盾だとは言えず、時間の 流れによる変遷過程を反映するようである。更に言えば、金正日大図鑑に出ている配置図は、現在の北朝鮮海軍の編制をある程度正確に反映しているのだろう。

 1つの決定的な差異点は、『防衛叢書』には、西海艦隊の南浦と東海艦隊の馬養島に各々潜水艦戦隊があると出ているが、『金正日大図鑑』には、潜水艦戦隊が全く出ていない点である。代わりに、『金正日大図鑑』には、馬養島に潜水艦隊司令部があるとだけ出ている。

■参考資料-3 潜水艦部隊に対するいくつかの疑問

 上で既に言及したように、韓国マスコミ報道を総合すれば、第3戦隊(咸南楽園)、第5戦隊(位置未詳)、第11戦隊(琵琶串、南浦)、第13戦隊(江原文川)が潜水艦を保有しているという。それにも拘らず、『金正日大図鑑』には、咸鏡南道馬養島に潜水艦隊司令部があるとのみ出ているだけで、ただ1つの潜水艦戦隊も登場しない。『金正日大図鑑』に出ている配置図は、潜水艦戦隊が漏れ落ちたものと考えることもできる。しかし、『金正日大図鑑』には、既に16個の戦隊が登場すること から、この外に追加的な潜水艦戦隊が存在すれば、国防白書の16個戦隊という限界を超えてしまう。この問題をどのように理解すべきか?

 駐屯地域を比較してみれば、韓国マスコミに報道された第3、11、13戦隊は、『金正日大図鑑』の楽園駆逐戦隊、南浦警備戦隊、元山警備戦隊に該当する。

 両資料が矛盾していないと仮定して、あえて共通点を探してみれば、仮説−@楽園駆逐戦隊と南浦警備戦隊、元山警備戦隊隷下に潜水艦編隊が所属していると仮定するか、仮説−A国防白書に出てくる16個戦隊は、潜水艦戦隊を除外した数値だと見て、第3、11、13戦隊は、潜水艦隊司令部と仮定するほかない。そうでなければ、仮説−B初めから『金正日大図鑑』や韓国マスコミの北朝鮮戦隊関連報道中、相当数は、誤りだと見る方法だけである(全て筆者の仮説である。)。

 現在としては、断定的な結論を下すのは難しい。仮設−@の場合、常識に外れた編制という点が負担のようである。同一戦隊内に水上艦艇と潜水艦を混成編成するのは、海軍編制の基礎常識に 食い違う。仮説−Aの場合、国防白書の属性上容易に肯くのは難しい。国防白書が提示する推定値は、ほぼ常に最高値を指向する。16個戦隊の外に潜水艦戦隊が追加であったとすれば、国防白書は、その数字まで親切に合算して、北朝鮮海軍戦隊数を 上げようとしただろう。仮説−Bの場合も、すんなり選択するのが難しい。『金正日大図鑑』に出てくる北朝鮮海軍戦隊配置は、明らかに肯けるだけの要素がある。また、韓国の個別マスコミが具体的に北朝鮮海軍戦隊単体ナンバーに言及したのも異例的なことから、単純な誤りだと断定するのが難しい。

 むりやりでも無理に推定すれば、筆者は、仮説−@に少し引き付けられる。これを取れば、次のように考えることができる(筆者の無理な推定で、1つの仮説に過ぎない。追加的な情報を確保すれば、判断を修正するだろう。)。

 「北朝鮮の潜水艦中の相当数は、独立的な潜水艦戦隊を形成しておらず、地域別に位置した警備戦隊隷下に分散配置されている可能性も考えてみることができる。ただ、これら警備戦隊に所属する潜水艦に対する権限(作戦、行政)中の一部は、該当戦隊がない馬養島に位置する潜水艦隊司令部で直接行使するのかも知れない。警備戦隊を含む海軍の16個戦隊に所属せず、潜水艦隊司令部直轄として存在する潜水艦もあると推定される」。

 万一、一部の警備戦隊に潜水艦が分散所属することが事実ならば、このように分散配置した理由は、何なのか?先ず最初に、生存性を増大させ、潜水艦 入出港状況を最大模糊にしようとする意図と解釈することもできるが、一方では、北朝鮮が彼らの潜水艦の能力の限界を認定し、防御的観点から潜水艦を運用することを示唆するのかも知れない。

 このような筆者の推定は、非常に不確実で、無理な推定である。しかし、米議会調査局の国家研究北朝鮮編1993年版の「Some submarines are assigned defensive patrols.(中略)The submarine force is decentralized. Submarines are stationed at Ch'aho, Mayang-do, Namp'o, and Pip'a-got naval bases」という文句をもう1度吟味してみる必要があるだろう。また、李グァンスが西海岸の南浦港、琵琶串港、海州港、東海岸の遮湖港、退潮港(楽園)、松田港、元山港等、7個基地が潜水艦基地だと語った事実も、もう1度想起する必要があるだろう。

■参考資料−4 戦隊当たりの艦艇保有数量の推定

 1個戦隊は、何個の編隊で構成されているのか?また、1個編隊は、何隻の艦艇で構成されているのか?これに対して言及した公開資料はない。しかし、脱北者金イルボムの97年度証言を見れば、第12戦隊は、12個の編隊で構成され、その内、空気浮揚艇編隊は、9隻で構成されるという内容を確認することができる。

 別の戦隊も、これと似た方式で編制されているのか?国防白書99年版と各種公開資料を基準に計算してみた結果は、次の通りである。

    戦隊 保有艦艇数量 1個戦隊当たりの平均艦艇保有量
西海艦隊(国防白書99) 6個戦隊 420隻 420/6 = 70隻
東海艦隊(国防白書99) 10個戦隊 570隻 570/10 = 57隻
全体(国防白書99) 16個戦隊 990隻 990/16 = 62隻
全体(国防資料集2001) 430+300+170+90隻  
全体(筆者推算1) 約780隻 + 140隻 920/16 = 58隻

全体(筆者推算2)

約780隻 780/16 = 49隻

全体(筆者推算3)

約715隻 715/16 = 45隻

  国防白書を基準にした場合、北朝鮮の海軍戦隊は、平均62隻の艦艇で構成されているという結果が出てくる。西海艦隊の場合、1個戦隊が平均的に概ね70隻、東海艦隊の場合、1個戦隊が概ね57隻を保有している 計算である。

 しかし、国防白書が提示した990隻という数値は、外国公開資料と比較すると、多少無理な推定値と考えられる。『Jane's Fighting Ship』やNaval Instituteの『Guide to Combat Fleets of the World』、World Navies Today、Military Balance等を総合してみた結果、北朝鮮の艦艇保有数量は、最大に計算しても、概ね920隻水準と考えられる(☞920隻という結果が出た根拠は、各艦艇別に保有数量を説明した部分を参照すること)。

 その上、各公開資料によれば、キムジン級65隻、ヨンド級50隻、TB-11PA 16隻、TB-40A 10隻等の小型沿岸警備艇(PB)は、正規海軍所属ではなく、海上警備艇隊系統で保有する艦艇のようである。米国海兵隊の北朝鮮ハンドブック(97年版)でも、キムジン級とヨンド級を分類するとき、WPB(Wコードは、海洋警察所属艦艇を意味)に分類していることを見ると、これら艦艇が海軍所属ではないことは、ほぼ確実である。これら140余隻を除外する場合、艦艇保有数量は、約780余隻程度となる。

 ここに最大推算値20隻と計算したサンオ級、最大推算値55隻と計算したユーゴ級中の相当数は、正規海軍ではなく、総参謀部偵察局や労働党作戦部で保有する浸透用艦艇である。ユーゴ級全部を浸透用と見て、サンオ級中の半分を浸透用と見る場合、全体780隻中、65隻を除外しなければならない。そうすると、北朝鮮海軍が保有する艦艇の最大推定値は、概ね715隻程度となる。

 筆者がこの文を作成した後、国防主要資料集2001年版(国防部発行)が公開された。この資料によれば、北朝鮮の水上戦闘艦は430隻、支援艦は470隻(この内、海上警備艇隊所属警備艇が170隻)、潜水艦艇は90隻(この内、潜水艇は50隻)と推算している。そうすれば、正規海軍艦艇は、430隻+300隻+潜水艦艇中海軍所属となる。国防資料集では、全体90隻中、潜水艇が50隻としていることから、この数値を除外して、残った潜水艦の半分を海軍所属と見れば、20隻となる。結局、総数は、概ね750隻水準となる。若干数値に差異があるが、北朝鮮海軍の実質的な艦艇保有数量は、715〜750余隻水準と言える。

 このように、16個戦隊が計715隻を保有していれば、1個戦隊平均艦艇保有数量は、44〜45隻水準となる。空気浮揚艇編隊以外に、別の艦艇を保有する編隊も1個編隊が9隻程度を保有していると仮定すれば、1個戦隊は、平均的に4〜6個程度の編艇で構成されるという結論が出てくる。

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最終更新日:2003/05/25

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